こんなことでダメになるなんて
紀ノ川つかさ

僕は人と人の間にいます
AさんとBさんの間にいます
Aさんからの伝言がBさんに伝わらず
BさんがAさんにしてもらいたいことを
Aさんにさせることができず
僕は壊れていくのです
こんなことでダメになるなんて

Aさん、あなたには理想と目標があり
日々、一生懸命、生きていますね
Bさん、あなたには家庭があり
あなたはしっかり、守ろうとしていますね
誰も悪い人がいない
人は人それぞれに生きている
こんなありふれたこと
こんな当たり前のこと
誰もが望んでいることなのに
こんなことでダメになるなんて

燃えるように赤い秋の葉が
窓から見える車道沿いに揺れています
自然界の生物は他者に気を遣わず
ただ自分のためにだけ生きている
だからあんなにも美しく燃えて
燃えつきて落ちていくのですね
僕はただ青白く
火はくすぶったまま
消えそうになっているのですよ
それは春さえも迎えずに
周囲で育ってゆく木々をただ見つめて
見つめ続けているのですよ
育っているつもりでもいつまでも
それは僕が木ではなく草として
生まれついているからでしょう
こんなことでダメになるなんて
こんなことでダメになるなんてね

君よ、僕はきっと
抜け殻のように生きるしかないのだから
貝殻を愛するような人であってくれ

君よ、僕はきっと
何かに挟まれて悲鳴を上げ続けるしかないのだから
けだものの咆哮を愛するような人であってくれ

空、高く
空、青く
心地良く秋風の吹きぬける
こんな日に
こんなことでダメになるなんて

人は一人ずつ
生きて
生きて
息づいている
こんな日に
こんなことでダメになるなんて


自由詩 こんなことでダメになるなんて Copyright 紀ノ川つかさ 2004-11-19 23:02:06
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