闘牛
紀ノ川つかさ

今すぐお前はひざまずいて許しを乞え
そう言いたげな世の中である

巨大でどう猛な牛が血を飛び散らせ
倒れる姿が見たい
そいつは知力と情報を角に蓄えて
ひたすら暴れ駆け回る
俺を目ざとく見つけると吠えるのだ
お前は何も知らないバカだ
バカは生きているだけで犯罪だ
剣をくれ、俺はあの牛を殺してやる
赤い布をくれ、あの牛に目くらましだ
マタドールの衣装をくれ、あの牛に殺されるなら
そんな姿の方がいいだろう
殺すか殺されるか!

俺の中には残酷な血が流れているが
俺はそれを分かっている
分かっていないお前達が
笑いながら罪も無い人を殺すだろう
笑えるなあ、こいつって笑えるんだよ
生きることに疲れ果て
傷つき倒れた者の前で
お前達は満面の笑顔で言ってのけるだろう
闘牛! 闘牛! アリーナはどこだ?
俺が倒す牛の姿はどこだ?
闘牛! 闘牛! 観客はどんな奴等だ?
純真無垢で血に飢えた平和主義者か?
知力を武器に人を刺す反戦主義者か?
目先の情報で騒ぎ回る経験主義者か?
俺があの牛に殺されるのは神の摂理だと
お前達の喉元まで出かかっているな
闘牛! 闘牛! 俺が剣を取るんだ
今すぐパブロ・ピカソを呼べ!
サー・エドモンド、シモーヌ嬢を連れて来い!
お前達は冷徹な支配者を代弁しているつもりだろうが
支配者はお前達をも冷たく扱うだろう
その時が来たって遅い!

その物陰に逃げ込んでいるのは誰だ?
詩人か? 歌姫か? 行商人か?
どうしてそこで胸を張っているんだ?
何か自分が偉くなった証でも
見つけたのかい?

闘牛! 闘牛! 剣を深く刺され
血をしたたらせあの牛が狂い死ぬ
外へ出ろ! さあ君よ
気に入らない外国人はもう殺したい放題だぜ!
闘牛! 闘牛! 牛は弱ったか?
乾いた砂は存分に血を吸ったか?
俺は生きていていいのか?
闘牛! 闘牛! 観客は拍手をしているか?
白いハンカチを振っているか?
返り血で何も見えないんだ
闘牛! 闘牛! 血もしたたる肉だよ
これは感謝の気持ちさ
おおいにかぶりついてくれ
分かってくれ
理解してくれ
歯を立てて食いちぎっていいんだ
お前達が普段口にしている
真実とやらの言葉よりも
その血まみれの口は美しいのさ
闘牛! 闘牛! さあもう一本剣をくれ
今度こそ
お前達を殺す


自由詩 闘牛 Copyright 紀ノ川つかさ 2004-11-08 22:33:52
notebook Home 戻る  過去 未来