童謡
伊月りさ

わたしが うたえるのは
あなたが ここでねむっていてくれるから
その細くあたたかい寝息が
わたしの血を走らせて
うたいたい
うたいたい
気持ちにさせてくれている

東京のはずれ
今日もバナナを食べましたか
遠くから運ばれた糖分で
あなたは うたう
あなたの うたごえ
つづられた厚い本を
小さなうでにかかえていた
あれから十五年間ずっと
うたいたい
うたいたい
気持ちのはじまりには
いのちに対するそのまなざし

おさなさに
あなたは一つの社会でした
記憶の限界をこえて
深奥にねむりつづける
このうたは
あらゆるいのちに そそがれつづけるので
あなたは しなないのかもしれない

七歳の娘のゆびは
黙々とマフラーをあみ
あなたのうたを追いかけた
どこまでも 思いのままに書きとめることは
はばかられる大人になりましたが
内蔵が発熱し
だきしめたい/だきしめられたい
瞬間をのこす すべを
あなたが教えてくれたので
つくり笑いもつらくない

あなたは今日も うたっている
半世紀以上まえのうたごえも
つくりたての声帯から ほとばしりつづけ
わたしたちのなかで ねむりつづけ
わたしたちは うたいつづける
あなたは いきつづける


自由詩 童謡 Copyright 伊月りさ 2011-09-02 23:45:56
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