『三面鏡』哀歌
千月 話子

 もうそこに 映る事無く 古道具屋に 
       売られて行くの  三面鏡


正面より左角度横顔の すまし顔
見ては微笑む 私の髪は
ちょうど腰のあたり
窓辺から光り差して 少し赤っ毛で


半開きにした側面に
両手を添えて覗き込む
子供の手 ベタ付いて
紅葉のような跡を残す いたずら


千切れた顔 小さく千ほど
彼方まで続く 私の
今日は十七番目が可愛いと思う


鏡越しに見える雨
裂けて三倍 降りしきる培養
そちら側では誰かが ずぶ濡れ
折り畳まれて 静かな夜の湿り気が
清らかな雫になっていてほしい
と想う 明日の夢をまた夢だと思う
 あやふや


降り止まぬなら消してしまおうと
ほの温かい息を吹きかけ
袖口でこする 広がる 靄
増大して映る顔 どこにも居ない


やがて 近づかない 近づけない
開いて 距離 薄布の向こう側へ・・・


 もうそこに 映る事無く 古道具屋に 
       売られて行くの  三面鏡


閉じる前に 開いた空は 『明け方』で
後ろ向きに見た 金色が
広がって 広がって 一杯になって
弾かれた 光り 「さよなら。」


ああ、、、合わせられた昨日と今日の
『しののめ』が古い写真を見るように
遠い色 静かに変色して行くようです




自由詩 『三面鏡』哀歌 Copyright 千月 話子 2004-11-18 16:51:10
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