酔っ払って記憶を失くす程の勇気をください。
千月 話子

白い大理石の上で眠りたいの 赤ワインを1本と少々飲んだのよ
ヒンヤリした床の上で丸くなって眠りたいの
ここが美術館の巨大絵画の前でもね


例えば 誰かに「あっちにお行き!」と言われたら
お上品に こう言うのよ
「この絵は、横になって見るのがよろしくってよ。
ヨーロッパの絵画雑誌にも載っていた事ですもの、ほほほ」と
次の日には老若男女 みんな横になって
「素晴らしい!」と喜びの声 響くの
   
    酔っ払いの戯言ですけどね   ほんと



白い大理石の上で眠りたいのに コツコツコツコツうるさいから
さっき白ワインも1本と半分飲んだのよ
ヒンヤリした床の上で うつらうつらを蹴飛ばされたので
『館内ではお静かに!』の プレートの側の床を
落とし穴の代わりに ピカピカに磨いておいたの
次の日には やたらうるさい団体が ツルツルを
ツルツル滑って 出口から飛び出して行ったわ

    酔っ払いの妄想ですけどね   ほんと



そういえば 昨日は日本酒をしこたま飲んで
冷たそうな青いベンチの上で眠ってしまったの
そこがゴミ置き場なら 黒いビニール袋にスッポリ包まれば
誰も見向きもしない 気付かれもしないのよ

明け方には あやふやな人型に読み終わった新聞誌でもかけてちょうだい
ご親切に 裏と表が明るいニュース記事だったりしたら
確実にあなたに恋をしているわね きっと

  酔いの残る頭の中は ちょっと記憶喪失気味です



朝 ご出勤の集団が 羊の群れに見えたりするの
私はバカみたいに狼になってワォ〜〜〜!と吠えて
右に左に散らしたいのに 完全な酔っ払いと化していなくて
仕方なくビルの山々 遥か向こうの美しい景色を思い描きながら
朝食にシードル飲んで パンとチーズとハムを頬張っている
羊飼いの少年になって 流れる雲を見つめていたの


  それはそれは 清清しい月曜日の午前9時ごろ
    
  ズキズキと理性が痛くても 今日は構わないのよ

 


自由詩 酔っ払って記憶を失くす程の勇気をください。 Copyright 千月 話子 2004-11-28 17:08:53
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