師匠
salco

 金之助

小さい時かかったインフルエンザが元で
鼻茸ができた金ちゃんは
いつも 右の鼻腔がピーピーしていた
(インターフェロン3本打っても治らなかったんだぜ?)
(するうち自然治癒で解熱したんだぜい入院6万弱)
「キンちゃーん!」囁きで呼ぶたび
目を閉じ「ケー」と囁きで返した
ボテボテの腹をモミモミしてやるとドテッと寝転び
大仰に喉を鳴らして筋肉質な四肢を伸ばした

ブラッシング大きらい 
性感マッサージ大すき
いつも 一番涼しい寝場所
一番暖かい寝場所を占有していた
ぶっとい後肢で直立しては
猫パンチでキッチンのノブを回し
棚の容器をはたき落として蓋を開け
じゃこ煮干しを頭だけ残して
涼しい顔
あらゆる窓と網戸を開け
殺した雀や鼠を持ち帰り
知らん顔
気が乗ると屋内でスプレー活動
飼い主の寝顔にもして
したり顔
車を止めて
ヘッドライトのセンターでノラと喧嘩を続行し
負け帰っては
輿に乗せられ獣医の家計に貢献してやった
「仕方ないだろ?
   子どもの頃ちんたま抜かれたんだから」

十二歳の秋、食べてはもどすようになり
毒物でも敗血症でもなく
脾臓が腫れて見えるが原因は
試験開腹しないとわからないと言われた
麻酔と切開に耐えるかも不明だと
輸液と看護を頼んで5日後
婉曲に打つ手は打ったと職場に電話が来
酸素室に入っていたのを連れ帰った
針を抜いた前肢にバンデージを巻いてもらい
まん丸かった顔は見る影もなく頬骨が突き出ていた
2昼夜、もう腰が立たぬのに
ずるずると前肢でぺしゃんこの体を運び
階段を上がっては
5度も6度もきちんとトイレでした
最後だけ、横臥のままペットシーツの上でした
金ちゃん、会いたいよ



 天才ちゃん

パソコンか寝転んでばかりの同居者に
ひと声かけると胃弱の三毛猫は
ダイニングチェアを足がかりにテーブルの
ポットの横で待つ
冬はぬるま湯を飲む
お湯の在り処と注がせる術を知っている
おさかな味の腎臓食には早くも飽き、
スペシャル味を欲しく思い
器の傍で待つ
胃に合わぬそれを4、5粒足させて
匂いに騙される
間食にかつお節も焼き海苔も嫌な時は
スライスチーズ
塩分あるから切れ端の端
満足したら寝床を充分検分してから
入って休む

咳の発作はここ数年、毎日だ
肋骨を軽く叩いてやると若干、治まりが早い
その横隔膜の引き攣れで吐く事も多い
嘔吐が2、3度で済めば大丈夫なしるし
繰り返した後うずくまっていれば、
病院に行く
それで今のところ、
長寿という結果も出している
猫はシンプルライフ
価値ある生を淡々と生きる
今日はお刺身食べたいとか
痛い苦しいとは言えない
けれどとりわけ鈍感な怪獣とも
わりと円滑な意思疎通を交して来た
優美でかわいいだけでなく
天才ちゃんなのだ
比べれば、人間などという
欺瞞と虚妄の下等動物は
時間と労力の空費を要求するだけ
だから「奉仕」は天才にしかしない
かほどに完璧無類の高格な固有種が
喋る山ヒルの如き人間より4倍5倍も短命なのは
まことに不当、
理不尽に過ぎる


自由詩 師匠 Copyright salco 2011-08-18 23:44:06
notebook Home 戻る