Sugar!!
木屋 亞万

どこに行くかを決めていなくても
走り出すことはできる
足の動くままに
一歩踏み出すごとに
近づいていく街並み
過ぎゆけば潔く
視界から消えていく風景

足の動きが自動化していく
肋骨の隙間が押し広げられ
肺は絶え間なく膨張していく
呼吸が荒くなればなるほど
気管を行き交う空気が熱く
喉をカラカラ乾かしていく

髪から垂れた汗が頬を伝う
背中のくぼみを汗が流れて
シャツをじっとりと濡らす
肌という肌はすべて
身体を覆う表面から
汗が止まらない

走れば走るほど
空が遠くなることを知る
わずかな風にも
木の梢が揺れることを知る
いくつかの雲が違った速度で
流れていることに気づく

足をつくたび膝が響く
それにあわせて腰もわななく
身体の重みが関節にぶつかり
私のしなやかな部分が
跳ねるのを感じる
力が一番加わるときに
身体はグッと前へ出る

風が頬に当たる
自分から空気へぶつかっていく
立ち止まっている空気を切って
どんどん進んでいく
何かを考えているようで
何も考えていない

身体の渇きと痛みと熱が
心地よさを挟みながら湧いてくるのを
ただひたすらに感じるだけ
思考は影を潜めて
感覚と感情が全身に満ちていく
走りながら
唯一あたまにあったのは
私が君を好きである
そのことだけだった

どこに行くかを決めなくても
走り出すことは出来る
でもできれば君の元へ行きたい

どこにいるのかも
何をしているのかもわからない
君の元へ
走っていきたい

涙の代わりに汗が流れて
どこにもたどり着かないまま
そっと引き返していくときには
すべてが疲れきっていて
とりあえず今日はあきらめて
家に帰ることにして
足を引き摺りながら
戻っていく

進んでも君はいない
振り返っても君はいない
届かない君を思いながら
走り、身体を疲れさせ
君の事を頭の片隅に押しやろうとして
今日もまた失敗している

どれだけ速く走っても
君を見たときのように
心臓は鼓動を早めない
恋を知りたがる心臓を
走るだけではもう騙せない
会いに行くから
走っていくから
どこに行けばいいか
誰か教えてくれないか


自由詩 Sugar!! Copyright 木屋 亞万 2011-07-31 19:10:12
notebook Home 戻る  過去 未来