蝉のいない夏
木屋 亞万

むかし虫は友達だった
ダンゴムシ、トンボ、ミノムシ、カブトムシ
モンシロチョウにアゲハチョウ
トノサマバッタにショウリョウバッタ
アマガエルにアカガエル
ミンミンゼミにアブラゼミ
クマゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシ
コオロギ、スズムシ
ザリガニ、メダカ
数をあげればキリがない

ゴムのついてる麦藁帽子に
短パンにサンダルで
よれたTシャツを着て
虫取り網とカゴを持って
自転車に乗り駆け回る
虫と僕との遊びはいつも
虫の命をもてあそぶこと

カエルを失神させ
トンボの目を回し
ありとあらゆる羽根をもぎ
手加減をしらずに掴めば
すぐにぐにゅりと体液が漏れる

虫は僕に後悔を教えてくれた
意図せずに傷つけてしまう
ちょっとしたイタズラのつもりで
たのしく遊びたかっただけなのに

死んでいった虫たちを
葬るのも僕らのしごとだった



自転車に乗って
セミが鳴いている木を、林を
通り過ぎるたびに
虫と遊んでいた頃を思い出す
今では触りもしない虫たちとの交流

夏の朝
網戸の窓から
目覚ましのように
鳴り響いた蝉の声を
今年はまだ聞いていない

いつの日か
蝉のいない夏が来る
鳥のさえずらない春も来る
君のいない秋もある
それから人間のいない冬も
きっとやって来てしまうのだ


自由詩 蝉のいない夏 Copyright 木屋 亞万 2011-07-18 20:02:07
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