おなかが痛いとき
チアーヌ

おなかが痛くなって
道のはじっこにしゃがんでいたら
知らないお兄さんがそばにきて
だいじょうぶ?
と聞いてくれた
わたしは顔を上げた
なんと言おうか迷ったけれど
「おなかが痛いんです」と
正直に言った
「だいじょうぶです」と
言いたかったけど
だいじょうぶじゃなかったから
正直に言った
正直になるのはむずかしい
よほど窮地に立っていないと
なれない
お兄さんはやさしそうな感じの人だった
お兄さんに迷惑をかけたくなくて
わたしは下を向いた
まずいことを言ったかなと思った
わたしは必死に立ち上がって
お兄さんのいないところへ行こうとした
人に頼っちゃいけません
体に染み付く合言葉
でもおなかが痛い
こういうときは仕方がないのかな
わたしはぐらぐらする
お兄さんはやさしく
「どこかに電話しましょうか」とか
「病院へ付き添いましょうか」とか
言ってくれる
「お願いします」
喉まで出かかったことば
飲み込んだ

こないでください
見ないでください
ほうっておいてください
だって
病院まで付き添ってくれたあと
お兄さんは
「それじゃ」と
帰ってしまうんでしょう
「もうだいじょうぶですね」
なんて言いながら
そしたら
たぶんわたし泣いてしまう
さびしくて泣いてしまう
でも涙は出ないから
そのぶん
体が膨張するんだろう
そんなのはいやだ
それはとても苦しいから
これまで何度も
何度も
やさしいお兄さんは
やってきたんだよ
みんないなくなったよ
みんな帰っちゃった
だから
ひとりでだいじょうぶ
どんなにおなかが痛くても
わたしはひとりでだいじょうぶ
道のはじっこに
しゃがんで
我慢する


自由詩 おなかが痛いとき Copyright チアーヌ 2004-11-15 18:01:48
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