帰郷
……とある蛙

宇宙に開かれた水の滴の
泥の堆積
火の木っ端に
夢が沈む 
雲の破片の沈殿物 また水の滴

屋敷の塀の高さに隠されていた
思い出のくす玉が
ロートルな部屋に輝く
ミラーボールの乱反射された
光のアンジュレーション
拡散した音符がきらめく
出窓から望める淡い遠景は
大型モニターの片隅の裏番組ほども
リアリティーの無い
小さな小さな箱庭の中の
さらに小さな自分の影

イヌ いぬ 犬を
子犬を宙に放り投げる
五歳児の自分に虐待の無意味な欠片
子犬の皺の寄った鼻先の下の剥き出しの牙
剥き出しの憎悪
陽気な夏のホースの放水のランダム
噛み付こうと宙を飛ぶ子犬
ジョン そうだジョンという名の雑種犬

宇宙に散布された夏の水滴は
拡散された五歳児の夢、正夢、悪夢
また 夢
睡魔の果て、地平線の彼方に初夏の
雲の破片の沈殿物
雨は水の滴を帰郷させる。


自由詩 帰郷 Copyright ……とある蛙 2011-07-02 19:40:27
notebook Home 戻る  過去 未来