初夏の神田の六つの詩
……とある蛙
1
朝九時にニコライ堂を右手に見
下りる坂の街路樹は
銀杏のくせに輝く緑
2
靖国通が
花満開だなんて
だれが信じるものだろうか
でも事実なのだから
3
湿気の多いビル街の中
連雀町の一隅が
タイムスリップした江戸の佇まい
蕎麦屋に鮟鱇、甘味処
みな木造
昔の落ち着き
(実際には明治なのだが)
4
橋と坂の多い町
相生 紅梅 男坂
昌平坂を登り切り
左に折れて御茶ノ水、
そこから望む聖橋
初夏の緑と陽光に
映える水面に大きな輪
5
明神下の色街は
今、芸者なぞいやしない。
しかし、元芸者のばぁさんが
若い衆二人に介護され、
ピアノバーでお澗のお銚子
ちびりちびりとやっている
粋な昔を目に浮かべ
6
ところで今日の徘徊は
連雀町の豚カツ屋
お銚子二本にロースかつ
それから徒歩で
昌平橋を渡りきり
明神下の馴染みの居酒屋、
賀茂鶴の初めの一合 肴はへしこ
軽く炙って平皿に
今日もヌル燗賀茂鶴の
噛みしめ噛みしめ
飲み込んで
次は二合徳利傾けて
肴はカツオかイサキ一枚
たらふく飲んで千鳥足
夜は深々更けて行く。
自由詩
初夏の神田の六つの詩
Copyright
……とある蛙
2011-06-28 15:33:04
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