初夏の神田の六つの詩
……とある蛙



朝九時にニコライ堂を右手に見
下りる坂の街路樹は
銀杏のくせに輝く緑


靖国通が
花満開だなんて
だれが信じるものだろうか
でも事実なのだから


湿気の多いビル街の中
連雀町の一隅が
タイムスリップした江戸の佇まい
蕎麦屋に鮟鱇、甘味処
みな木造
昔の落ち着き
(実際には明治なのだが)


橋と坂の多い町
相生 紅梅 男坂
昌平坂を登り切り
左に折れて御茶ノ水、
そこから望む聖橋
初夏の緑と陽光に
映える水面に大きな輪


明神下の色街は
今、芸者なぞいやしない。
しかし、元芸者のばぁさんが
若い衆二人に介護され、
ピアノバーでお澗のお銚子
ちびりちびりとやっている
粋な昔を目に浮かべ


ところで今日の徘徊は
連雀町の豚カツ屋
お銚子二本にロースかつ
それから徒歩で
昌平橋を渡りきり
明神下の馴染みの居酒屋、
賀茂鶴の初めの一合 肴はへしこ
軽く炙って平皿に
今日もヌル燗賀茂鶴の
噛みしめ噛みしめ
飲み込んで
次は二合徳利傾けて
肴はカツオかイサキ一枚
たらふく飲んで千鳥足
夜は深々更けて行く。


自由詩 初夏の神田の六つの詩 Copyright ……とある蛙 2011-06-28 15:33:04
notebook Home 戻る  過去 未来