カチン
蒼木りん

明日が来るのが速いからと
アイロンを温めはじめてから
2時間余り経ってしまった


白い面の向う側へ
境界は解けて
霧のヴェールで朧げな世界に
誰かを探しに行っていた

私は
中東の女のように蒼布で全身を覆う
ここでは
零れた感情だけが裸体を曝す

入り乱れる
時代 人物 品物 金 文字 色 怪物 犯罪 アート
なるものが架空の世界で浮遊している

私はこの辺に居るけれど
あの人は
どこの街に居るだろう

ここは誰でも
鼠色のバスに乗れば
意のままに魔術が使える

巨大な街で漂流する
惚ける
どす黒い闇に巻き込まれる

魔が差す人がいる
魔が差してばかりの人がいる
君はなにでもないよ


魔が

差す




跨ぐ



結局今日も
誰かには会えなかった



時折
カチンと
アイロンが溜め息つく音だけは耳に届いた

いいかげん
待ちくたびれていた


出入り口はドアでなく窓の
変な世界
飛びすぎて疲れた


今夜は
とうとうアイロンのスイッチを切り
コンセントを抜いた




未詩・独白 カチン Copyright 蒼木りん 2004-11-10 08:39:53
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