ガラパゴス諸島に行かなくてはならない
亜樹

ガラパゴス諸島に行かなくてはならない。
彼が生きている間に。


彼はきっと、清潔なゲージの中でキャベツを食べている。
その眼が私を映してくれる間に、私は彼に会いに行かねばならない。
聞かなくてはならないことが、ある。

「ねえ、ジョージ」
「ひとりぼっちって、どういうこと?」

私は、確かに一度
それを知っていたはずなのだ。
おかあさんのおなかの中で
羊水に満ちて
肉の壁に囲まれた
あの狭い狭い世界の中で
確かに私はひとりぼっちだった。
なのに、今、
もうあの頃のことは何一つ思い出せない。

放課後の教室や
高い木の上や
赤信号の交差点や
病院の屋上で

立ち止まって空を見ても
もうあの頃のことは何一つ思い出せない。

「ねえ、ジョージ」
「ひとりぼっちって、どういうこと?」

私がひとりぼっちだった頃
あの頃の何百倍も広いこの世界で
私に答えをくれるのは
多分彼だけだ。

なので、ガラパゴス諸島に行かなくてはならない。
彼が生きている間に。


自由詩 ガラパゴス諸島に行かなくてはならない Copyright 亜樹 2011-03-02 20:04:32
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