君が眠る為の眠れなくなる話
うめぜき



眠れないのかい
そうかそれならば、そばにいて、少しだけ先々の話をしようか


いつかね
君は誰かを裏切る
すると口の中が深く深くざらざらしていって
乾いていくんだ
その人の歪む顔や罵る声が深く、刻み込まれて
君は膝小僧を擦り剥いた時のように
わんわんと泣くだろう
それはそれはとても怖いのだよ
いっぱい泣いておくといい
そばにいられないけれど
そばにいるよ

ある日になれば
君は誰かに恋をするだろう
そうして恐々とくちづけるのだろう
それはきっととても下手なくちづけだ
その下手さ加減が恥ずかしくなって
一生残るよ、それとね
その人はいつか必ずいなくなる
その恐怖は君に孤独を教えるだろう
震えるように
いや、あるいは、その頃君は泣くのを憚るかもしれないね
でもいっぱい泣いていいよ
そばにいられないけれど
頭を撫でてあげるよ

そのうち
君にも家族が出来る
一生懸命守るんだ
壊さないように、壊さないように
するんだ
僕と君が会えなくなったように
なってはいけない
それでも何処かで君は
壊れないようにしなければならない
君の中の君が
もし壊れてしまいそうなら
いっぱいいっぱい
でもこっそりと
泣いておいで
そばにいられないけれど
その時は
そばにはいられない
のだけれど


月明かりが柔らかい
眼を閉じると川を吹き抜けてきた、風が頬を過ぎる
美しい歌が耳の奥で響いている
星は煌く
そしてその闇の向こうで
時々は降り注いでいる


おやすみなさい
そのうちやさしい物語ばかりが君を待ち受けている
眼を閉じて、耳を澄まして
全身で聞くんだ
大丈夫
そばにいられないけれど
そばにはいられないのだけれど
そばにいるよ














自由詩 君が眠る為の眠れなくなる話 Copyright うめぜき 2011-01-28 03:48:38
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