君は君を助けてくれる寝言を
真島正人


君は
君を助けてくれる
寝言なんて

どこにもないと
君は思うかもしれないけれど

工事現場に不意に
ひろい闇が広がるように

鶴の毛が抜けて
猫がはみ出してくるように

思いもよらない物事が
つながっているものなんだ

学生時代のセンター分けの
前髪から、
虹がはみ出してきた

学生時代の君の
キューティクルから、
生活が這い出してきた



たとえば性欲だって
股の大事な部分だけじゃなく
過去と未来
そして些細なことで割れた
食堂の古いガラス片とかに
突き刺さっているものなんだ

さっき通り過ぎていったオートバイ
倍速で震えた
音楽
地下の震源地から
高級ホテルのボーイさんの
上唇に残ってる
リップクリーム
エッチな本ばかり
置いてある本屋さんの
二階の戸棚の
ドゥルーズとか
高島屋の8階の
スポーツ用品置き場の
薄い影とかに

誰かの寝言が隠れているよ

寝言はとても
大切なんだよ

それはそれひとつで
生きているものさ

寝言が
君の事を思い出した
君は寝言を放り投げた
口からはみ出した寝言は
ずっとさびしかった

寝言の時間は
僕たちの時間とは
違う

寝言はあの夜からずっと
同じ場所にいて
君の口に戻りたがってる

君は
君を助けてくれる寝言を
大切にするべきさ
恋の相談なんて
してごらん
パジャマの裾を
ぎゅっと握ってね

やさしいささやきを、
求めてみるべきさ
砂糖菓子みたいな、ね

甘さってのは
大切なんだよ
それに飢餓しているから
欲しくなるものだから

求める人を
叱っちゃいけない

細い細い体をしているよ

いったりきたりしているよ

夏には焼かれるよ

冬には枯れているよ



寝言はどんな季節にも
のっぺらぼうで

知らん振りさ

寝言だけの時間の中にいるから



自由詩 君は君を助けてくれる寝言を Copyright 真島正人 2011-01-11 01:42:16
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