らーめん屋でクリシェに見舞われる
うめぜき


クリスマスソングばかりがらーめん屋で流れている
そこにいてひたすらにらーめんを啜っている
あらまあこれは体の良いクリシェだこと
と自らを貶めていると
途端にらーめん屋の店主の体が開きだし
ページがバラバラとめくれていった
店主の形の大草原のようになって
まるでそこははるか彼方まで続いているかのようだった
あらまあこれは体の良いクリシェだこと
と横の女性が驚いていたので
ああこれもまた定型というやつなのかとため息をつくと
ため息がたまねぎの形をして
とたんにドンドンと音を立てながらカウンターに落ちていく
それを眼で追う他のすべての客は決して拾おうとせず
ラジオから駄々流しのクリスマスソングが
あらまあこれは体の良いクリシェだこと
と言うので僕は苦笑をするしかない
よくよく考えるとすべてがクリシェじゃないか
そんな哲学的な発想をするけれども
それらがワープロの文字になってらーめん屋を駆け巡る頃合になれば
夜更けに潜んでいると思われる獣が
わおーん、わおーんと鳴いている
あらまあこれは体の良いクリシェだこと
そんな様子の鳴き声だ



自由詩 らーめん屋でクリシェに見舞われる Copyright うめぜき 2010-12-02 05:23:41
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