あーちゃん
森の猫

あたしは
妊娠がわかると すぐ
あかちゃんのことを
愛称で呼ぶクセがある

あーちゃん

息子の病状が安定した頃
2番目の子供を授かった

今度はきっと
女の子だ

そう決めこんで
あーちゃん
と 呼びかけていた

まだまだ
胎動もなにもしない
平らなおなかに向けて

初夏をむかえる頃
月数のわりには
お腹が妙にふくらんでいるのに
気づいた

すぐ
健診のとき
主治医に話した

  卵巣のう腫ですね
  右の卵巣が卵大に腫れています
  すぐ手術しましょう

あ・・・
有無もなく
手術日が決まっていった

普通の卵巣は親指の頭ほど
かなり大きくなっていた

そして
なんと あたしの誕生日が
手術の日となった

運命を感じた

  先生 赤ちゃんは元気なのでしょうか?

  ハイ 元気ですよ

  手術をしたら 赤ちゃんは・・・

主治医は言葉をにごらした

あぁ
あたしは一瞬にして理解した
まだ 5ヶ月にも入っていない
腫れた卵巣とともに
この子は・・・

手術などしたことはない
全身麻酔をかけられて
手術台の上にいる
自分を想像すると
怖くなってきた

いやだ
したくない
手術なんか
あーちゃんを産みたい

そう強く思った

あたしは祈った

絶対に手術はしたくありません
元気に あーちゃんを産みます

強く 強く 祈った

主治医から電話があった
麻酔医の都合で
1週間延ばしてほしいと

  先生 早くしなくて
  大丈夫なのでしょうか?

今度はこちらが聞きかえした
だが 個人病院のこと
総合病院の医師に
合わせるしかないという

あたしはなにか
頭の隅で
感ずるものが あった

チャンスかもしれない

さらに さらに
祈った

手術はしたくありませんと

数日して
下腹部に違和感を感じた

あっ・・・
あわてて トイレに行く

それは
便とは 言いがたい
タール状の ドロドロしたものを
排出した

と 気づくと
お腹の異常なふくらみが
なくなっているような気がした

すぐ 病院へ急いだ
主治医は内診・エコーをかけ

  潰れたな
  よし。 手術は中止だ。

あたしは
もろてを上げて喜んだ

やった
あーちゃんとママの
勝利だ!

その年の12月
3300グラムの
女の子は

超のつく
安産で
生まれた


あーちゃんも
二十歳になった


自由詩 あーちゃん Copyright 森の猫 2010-11-22 13:19:10
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