ピクニック
Akari Chika

真夜中の 誰もいない教室に
女たちが なだれこむ

レジャーシートを敷いて
だらしなく座り
シャンパンを開ける

おつかれえ 今週も仕事 頑張ったね
うちらまだまだ いけるじゃん 若いね

乾杯!

形だけは それらしく
かごに詰めた バゲット サラダ
たっぷりの玉子に ベーコン チーズ
少し冷めたミネストローネ・スープ

むくんだ足を 揉みほぐしながら
教室を眺める ぐるりと
父母の似顔絵
粉っぽい黒板
整然と並んだ机
つるりと滑る床

なんかさあ あたしたちの頃と 変わってないね
ほんとほんと まだいけるよ やっぱ若いね

乾杯!

女の1人が 鼻の頭を染めて言う

あの頃は パンストの代わりに白い靴下はいて?
太ももとか お尻の形気にせずスカートはいて?
重たいメイクポーチも 携帯も手帳も持たず
あんなに遠くまで行けたよね?

ハッとして
女たちは 黙りこむ

あんなに遠くまで
あんなに遠くまで
行けたよね?
それはせいぜい隣町
今なら電車で5分
だけど
あの頃は
あんなに遠くまで
行けたのに

女の1人が しみじみと言う

あの頃は良かったねえ
もし 戻れるなら 何がしたいと思う?

それをキッカケに
にわかに 活気を取り戻す 女たち

あの頃は 絶対できなかったことをするの
ランドセルに iPadを入れて通学して?
上履き袋に ハイヒールをしのばせて?
授業中に 覚えたての九九を
twitterでつぶやくの

5の段 なう!

あはははは それ最高 いいねいいね
てか発想が いけてるよ まだ若い証拠

永遠の乙女たちに
乾杯!

ひっそりと 静まり返る校舎の
その教室だけは さわがしく
深夜まで 明かりが消えることはなかった

週末の 花咲く乙女が ベルトをゆるめて言う

あの頃は
あの頃は
あの頃は...



自由詩 ピクニック Copyright Akari Chika 2010-10-04 19:43:10
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