10 years ago
本木はじめ


あのひとの黒髪をみたことがない
彼女は髪の長いひと
はじめて手紙をくれたひと
姪っ子にリンゴ飴を買ってきてねと頼まれて
祭りの帰りに
「ちょっと待っててください」
と闇の中へと消えたひと
息を切らしながら
帰ってきて
「買えませんでした」
青いリンゴ飴だった僕
付いていく もしくは買ってきて探して来るべきだっただなんて今さら
ぼくはもうあなたに会う資格を失ったのです
波止場では釣りをするひとたちが
石のようにじっとしている
その遠方で規則正しく回転する灯台の灯が
ときどきまぶしいそしてあれが
「夏の大三角形」
だなんて夜空を見上げ言ったけど
あんなの適当だった
何度もなんども訪れる沈黙に
手をつなぐことも
できなかった
臆病な羊がはるか上空の鳥に
みとれるように
せめて あなたにみとれていたかった
直視すらできずに
あなたの住む街まで
最終電車で送ったあと
10キロもある帰路をとぼとぼと歩きながら
気がつけば10年

今年も真っ赤なリンゴ飴を買った











自由詩 10 years ago Copyright 本木はじめ 2004-10-19 01:10:49
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