あとで何も思い出せないくらいの人生を生きたい
ホロウ・シカエルボク




あとで何も思い出せないくらいの人生を生きたい
あの時あそこで何をどんだけ食べたとか
そのあと誰かと湖の閉鎖中のボート乗り場で
かなりきわどいところまで乳繰り合ったとか
そんなことどうでも構わないくらい
回転数の速い人生を
柱時計から飛び出すのを待ちかまえている
造り物の鳩を撃ち殺すような毎日じゃ
せっかく入れ替わり続けている細胞に申し訳が立たない
狩りを忘れた哺乳類だから
その代わりに出来ることを精一杯しなくては
クリームシチューに牛乳をどれぐらい入れるだとか
それをエレガントと呼ぶことの危険性だとか
そんな小理屈はもうどうでもいいのだ
あとで何も思い出せないくらいの人生を生きたい
いちいち説明する必要もないような足跡を残して
ブラボーって叫んでこと切れる
誰々のおかげでいい人生だったとか
んなこといちいち言わなくていい
ボーイ・ミーツ・ガールのエンディングみたいに
パッと死んでパッとクレジット出してお終いでいい
適度なスピードがどのくらいだとか
ハンドル操作のキモとかブレーキングのテクニックとか
要らんこと言わん
ガッと踏み込んで走れるだけ走る
競技的なものの考え方は
ルール・ブックを分厚くするだけだ
これが魂のためにどうだとか
これが誰かのためにどうだとか
いちいち考えながら動くことはない
教義的なものの考え方は
役に立たない神様の載ってる名簿を分厚くするだけだ
あとで何も思い出せないくらいの人生を生きたい
思考なんか暇人のすることだ
山頂で生まれた水が適当な道を選んで海を目指すみたいに
なんとなく放り出された人生をまっとうに流れてみたい





自由詩 あとで何も思い出せないくらいの人生を生きたい Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-09-05 15:16:44
notebook Home 戻る