碧い七里ヶ浜
Akari Chika

凍える体を暖めてくれる
そんな 一杯のコーヒーにもなれない僕は
冷え切った君の手をさする
どうにかして
暖めてあげられないかと

癒されない痛みがあることを知る
閉じては開く 傷跡があることを

春雨の降る
七里ヶ浜の駅 プラットホーム
低いベンチに腰掛けて
僕は途方に暮れていた

君はただ
さっきまで側にあった海を
物欲しそうに見つめている
砂浜に打ち上げられた
碧い空きビンのように

必要なのは治療なのか
叱咤なのか
手を引いて歩くことなのか

その心に明かりを灯したいのに
火の分け方がわからなくて
その心を風の通る草原に連れて行きたいのに
ドアの開け方がわからなくて

それならば僕は
いっそのこと 時計の振り子になって
君の頭上で 時を知らせ続けよう
君の時が止まらないように
もう後戻りしないように
少しずつで良いから
前に進めるように

遮断機が下りて
江ノ電が ゆっくり滑り込む

静寂を破る笑い声に
深く俯いて
居場所はますます 狭くなる

雨音に混ざるのは
君の押し殺した嗚咽
解放されない苦しみが
喉を突き刺し 暴れている

僕の体へ崩れ落ちた君は
白い 貝がらみたいな耳を
この胸に当てて
僕の鼓動だけを聴いている

それならば僕は
いっそのこと メトロノームになって
君の耳元で リズムをとり続けよう
君のペースが狂わないように
周りの音に惑わされないように
ゆっくりで良いから
次のリズムを 刻めるように




自由詩 碧い七里ヶ浜 Copyright Akari Chika 2010-09-04 00:50:55
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