こぼれた群集 (レイヤード)
乾 加津也

あなたがいる
汽笛がなって
レモンバアムのかおりがひろがる

わたしはいない
鰹節の振り子のように
首を捜しにでる

あなたとわたしは
しばらくたちどまる群集のどこかで
(それもちりぢりの方角にいて)
いつかのローマの交通をなげいていた

あなたは高架橋のさいごの礎をおろし
その上をわたるわたしに耳をすます
ふりそそぐ新聞紙にまみれ
だれかの靴がかがやくのがわかる

雨にうたれたメロディを踏むたびに
コートの裾は小さくひるがえる
展望台なら身を投げて
あすをかたどる映像を凍らせようか

「均衡なの?」
あなたはおもう
「清冽だよ」
首のわたしはうなずく

イルカがはねて
星のかけらが散った
陽がのぼるまでは支配はやんで
あなたとわたしは群集のままたちどまっていた


自由詩 こぼれた群集 (レイヤード) Copyright 乾 加津也 2010-08-02 18:00:57
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