Sentimental centimeter
あおば

              100606


60サンチの艦砲射撃で街の中は大混乱
命が大事と逃げ出したくなるのを踏みとどまって
物干し竿を売りにゆく
20年前の価格ですと
ラウドスピーカーを響かせて
路地から路地を軽四輪を走らせる
危険地帯を抜け出してからは
太陽電池のリサイクルを始めた
20年も経つと汚れたりして効率が落ちる
新型に換えた方がお得ですと
家から家にチラシを投げ入れる
エコポイントも貰えます

虎のように生きたいと
林の中に身を潜め
獲物の通るのを待つうちに
満月が山の峰から出てきた
3センチくらいに見えるので
片手で掴もうとしたが
少しだけ距離が届かない
背伸びしたが
月は思いの外に素早くて
雲の中に隠れてしまう
対岸で
ギャーギャー騒ぐのは吠え猿か
うるさくて耳を塞ぎたくなって
伸びた手が縮まって
それ以来
月は満天に充ちている
60サンチ砲でも届かない
艦砲射撃が月に届かないなら
物干し竿の代わりに
新型の高射砲は如何ですかと
新型の軽四輪を走らせる
路地から路地へと走らせて
朝が来るまで走らせて
ヤブ蚊に食われて腕が痒い
掻いたら3センチくらい赤くなる
朱に交われば赤くなるのは自然だが
掻いただけでも赤くなるのは何故だと
セイタカノッポは考える
なぜだろう
なぜなのだ
なぜただけ
なぜて
素直になって
伸びて
どこまでも伸びてゆき
指先が
中天の月に届くこともあるだろう
3センチだけ距離が不足するときに
出現する吠え猿に
餌をやってはいけません
判決文を読み上げた






「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、ちゃむさん。



自由詩 Sentimental centimeter Copyright あおば 2010-06-06 18:15:25
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