滴下のトランス
salco

例えばオレの女はAneCanモデルでピアニスト
プロダンサーでハリウッド女優、リリック・ソプラノ、ド変態
女神で奴隷、天使で悪魔、妖精で人魚でお人形
まっさら処女のドドメ色淫乱、水色聖母
銀色の宇宙飛行士で闘志漲るなでしこジャパンの頭突き
月光 太陽 海原 大地 成層圏、
地獄の油田 天国の雲上 入江の白砂
花弁でアロマ 果肉で樹液 真綿で鉱石
霧で水で氷で紅蓮の炎
何故ならオレの生涯の妻にして、
未来永劫へ連なる子孫の原始母
オレのムスコをシゴく薔薇色の格納庫にして、
オレの遺伝情報を満載した数知れぬチタン・ミサイルを遥曳させる
宇宙の深遠
ミトコンドリアDNAの永世継承

オレの女は既にして太古であり未知なる来世だ
よってこそ永遠の未踏、変幻の魔性でなければならない
だから矛盾のスリルでいつでもオレを困惑させ鼓舞する
軍装のオレを見つめながらしどけなく指を濡らし、
裸形のオレが近づくと腿を固く合せて冷然と拒絶する
突っ込まれる度に破れて出血し泣きながら、
いやらしく喘いで吸引していなければいけない
オレが呼んでも姿を見せず、
オレの目だけを見上げて侍り、
オレをひっぱたきながら舌を絡ませ、
腕を突っぱりながら尻をグラインドさせ、
常に背後に寄り添ってオレの腰に両手を回し、
他の男と交接しながらオレの名を呼び、
遠く離れていながら音楽のように、
オレの搏動を甘美な舌でねぶり続けている女。
ニンフォマニアの処女膜自動再生は実現可能か 

可能だ
真実の、極点へ達した愛憎の中にこそ

オレの執着に見合う運命の女は
やはり奇怪な双子を連れているんだろう
単一の胴体を分け合う愛と憎は相食んで増長して行く、
分離の叶わぬ運命共同体だ
究極の愛は無辺の歓喜であり平安であり無私であると共に
絶え間ない呵責、相克、束縛に他ならない
余りにも激しく欲し合うならば、もう食い合うしか道はない
業苦に満ちた地獄での抱擁にこそ濃厚な陶酔がある
その愛に担保を求めるなら、当然殺すしか術はない
オレは傍らに腐れ行く屍を離れはしない
口一杯に溢れ来る命をその都度同衾の恋人に口移ししてやりながら
眼窩の虚ろからも落涙の蠢動をとめどなく注ぐだろう
これだけが幸福な結末だ
別離も涅槃の半睡も望まない苛烈な恋人達の入滅は
存在を欲し苛み合う覚醒を置いて外にない
既にして死の婚礼が予約されてあるのだ
こうして破滅へ至る道をどこまでも結ばれた、
やはりオレとお前も精神的・肉体的シャム双子に他ならない

二人一体 愛の怪物

無残なオレ達の引きずる奇怪な影の濃密に触れた万物は
毒にあてられ枯死するだろう
究極というトランスは、時間という堕落を容れない
世界という無意味は存在を許されない
オレ達は二人一体の点
始点にして終点
無限の収斂
漆黒の
無だ

お前は一体どこにいる
今どこをほっつき歩いているんだ?
何故ここに来て、オレを愛し憎んでくれないの? 早くおいで
お前は返事をしない。
何故なら遍在しているからだ
まだ存在として形を成さず、遍くオレを取り囲んでいる
だから目を閉じていつでもオレはお前の髪を、
その香しい匂いを懐かしい色を
誇らしい艶をもの柔らかな囁きを、
ひんやりと重い静謐を
こうして鼻先に感じているんだ
それを恋人と呼ぶならば、これほど近しく遠大な宇宙は他にない
ああ、早くお前に突っ込みてえよ、エンジェル。
ホリゾントの蜃気楼  極北のオーロラの声
オレの女はそれでもいいんだ
唯一の、最初で最後の女


自由詩 滴下のトランス Copyright salco 2010-05-07 23:28:45
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