わかることわからないこと(1)
クローバー

「血液さらさら」
「新ものあります」
木製の箱にはそんな言葉が書かれている
値段も、種類も無いが
それがタマネギで
おおよそ100円玉数枚の値段であることがわかる
前者は、季節と血液がさらさらになる、という言葉からの連想で
後者は、お釣りが用意できない無人販売である、ということで。

今、この場は、気づくことと気づかないことの差を争っていて
なんだろう、ずいぶん疲弊しましたね。
僕にわかることと、君にわかることが違う
なんて、シンプルなことが、どうして、争いになるのだろう。
それは、たぶん、自分がわかっていることなんだから
相手にわからないわけがない、と思いこんでいるからだろう。
それは、甘え、だと思うんだよ。
自分のわかっていることは、正しい。
と、わかっているのは自分だけだよ。
わかっていることが、共通の認識で、存在するなんて幻想だよ。
「その人の気持ちになって考えてみなさい」
と、僕はよく言われた。
幼稚園から小学生の頃だ。
幼い正義感は、自分のわかっている正義と矛盾すればそれが悪だと思っていて
許されざる行動には、徹底的に議論をふっかけ、逃げだそうとすれば、拳も辞さなかった。
間違ったままでは、その子がかわいそうだと思ったし、それ以上に、間違っていることが許せなかったからだ。
しかし、先生や、親などは、僕が誰々君を殴った、ということをはじめに聞いている。
暴力は悪である。戦隊ヒーローは集団で怪人を痛めつけるというのに。
そして、
「短気は君の欠点だ。相手の気持ちになって考えてみなさい」
と、言うのだ。
今なら言いかえせる。
「一般論からの決め付けは、あなた方の欠点だ。僕の気持ちになって考えてみなさい」
そして、僕は、言い返さなかったので、考えた。
卑怯なまねをしてまで、物事を自分に良いように進めようとする人の気持ちは、どのようなものか、を。
僕だったら、自分にも絶対に許さないような、ルール違反をしながら(それは、ゴミのポイ捨てだとか、ドッチボールの線を越えて、当てたにも関わらず、それを申告しないとか、そういったものだったけれど)黙って、ニヤニヤしている、別におかしいことなんかしてないよ、ふつーだよ、ふつー、と言ってしまうような人の、気持ちを。
大人の前で、自分がいかに不利益を被ったか、僕がいかに理不尽な行いをしたか、のみ訴えて、自分の行為は、黙っている、そんな気持ちを。

そうして、わかったことがある。


散文(批評随筆小説等) わかることわからないこと(1) Copyright クローバー 2010-04-13 00:02:06
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