乱視
高梁サトル


眼球の筋肉が弛緩して光を巧く捉えられない
ぼやけた視界を懸命に凝らして
壁つたいに歩いてゆけば出口に辿り着くと呟いてみる
規則性を見出そうとする心には不安があるのかな
皺を寄せた眉間を指先でそっとなだめる

短編小説を最終ページから飛ばし読む
筋書きや構成なんてどうでもいい真夜中に
脳の中で矛盾や葛藤を清算する
これ以上僕自身にも他人にもなる必要はない
ただ頭を空っぽにして眠ればいいんだ

兎のように小刻みに睡眠をとる
電源は入れたり切ったりするときが一番
電気代がかかるんだって誰かが言ってたよ
人より多い心拍が早く打ち止めになればいいのに
“意識的に陶酔する”と走り書きしたメモを丸めて棄てる

(喜びよ汝の魔法の力がこの世のしきたりによって断ち切られたきずなを元通りにしてくれる)
眼が覚めるたびに呪文のように唱えてる
幼い頃は魔法使いなんて嘘吐きだって馬鹿にしていたけれど
信じることに全力で取り組んでこなかった
僕はそのツケを今払ってるんだと思う

心配しなくたってあの子は頭がいいから大丈夫さ
少し自失したらまた取り戻して歩き始めるよ
欲しいのは大げさな愛情や啓発じゃなくて
アンビバレンスを集束する知識や熱情なんだ
もし与えたい気持ちがあるのならそうゆうものにしてくれよ

未分化なふたりが出会って一瞬でも癒されたのなら
それは意図せずして起こった奇跡と言うのかもしれない
そんな簡単なことにも気付かなかった
僕にはさっぱり愛をする才能がない
母さんのお腹の中からもう一度やり直したいよ

籠の中にいる鳥は肋骨に護られた心臓みたいだと思わない
力加減を間違って殺してしまうのが怖いから
大切なものは距離を置いて見守ることにしてるんだ
本当は下手糞なんだいろいろと苦手なものも多いし
そんな僕なりに生きていけるんだから笑っちゃうよ世の中

ひとつ、ふたつ、
点在する光を結んだ焦点に
きみがいてくれたらいいな
待ち合わせするみたいにさ
約束みたいで素敵じゃない?


自由詩 乱視 Copyright 高梁サトル 2010-03-11 23:47:54
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