それでも君が欲しかった。
高梁サトル


君の指先が触れて、それだけで僕を揺らしてしまう。
君は知らないだろうけど、心の中ではずっと惑ってた。
世界にも君にも飲み込まれたくなくて、ずっともがいてた。

 「ねえ、
 もう一度キスしたら、
 きっと僕らの世界は変わる」

それが怖かった。
硝子細工のように脆い気がして。
立ち尽くしたまま、何もできなかった。
触れることさえも、いつも、
逃げ消えられるように、違う姿を借りて。

僕らはただの臆病者だった。
ただの能無しだった。
ただの恋人だった。
それ以上でもそれ以下でもないって言葉に縋っていたのは、
それ以上でもそれ以下でも耐えられなかったから。

だけど、僕はあの日。
別の世界に触れて君の扉をノックした。
知らせてあげないとと思ったんだ。
鳥があんなに空高く飛べることを、
草原が朝露に濡れて輝いていることを、
夢から覚めても心が晴れていることを。
全部、全部。
あれもこれも。

知らせたかったんだ。
知らせたかっただけなんだ。


自由詩 それでも君が欲しかった。 Copyright 高梁サトル 2010-02-02 17:36:16
notebook Home 戻る  過去 未来