皮膚の境目
なき

 京浜東北線に乗ったら、隣に乗り合わせた男がガムテープを鞄から取り出した。黒い生地の埃っぽく薄白く汚れたビジネス鞄。黒い繊維で側面の汚れたガムテープ。

 ビリビリ、ビリビリ。

 引っぱがしてちぎっては、自らの顔に貼付けていく。顔の輪郭。顎と耳の間。首と顎の間。そうしないと、被った仮面が取れてしまうというように。

 狂気より恐怖。発散された恐怖に感化して、右半身の皮膚が痛いほど緊張する。

 ビリビリ、ビリビリ。

 剥がさずにそのまま降りていく。黒い鞄を両手でぎゅっと抱きしめて。

 狂気より恐怖。私の心臓の右側。羽織ったジャケットが右側だけ皮膚に同化していたような錯覚。

 剥がすとき、痛いだろうに。


自由詩 皮膚の境目 Copyright なき 2010-01-27 00:31:45
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