名前を教えてあげる
あぐり

屋上で風をみていた君とわたしの背中には羽が生えない
望んでいないところに種は蒔かれない
潤いなどない足の付け根にいつも息を吐き出す他人には
顔がないものだから頭のなかで君の眉間のしわを貼り付けている

午後十一時に君はいつもメールをくれて
わたしはそれまでにお風呂に入り髪を洗いながら横顔の正確な骨格を思い出し
決して豊かではない胸を押し潰しては
もっともっとちいさくなりますように。って願ってる
どうして誰かと眠る度に
この二つの塊は膨らんでいくのだろう
、声をあげないからかもしれない
押し殺しておしころして、眼を瞑っているから
その間にあいつらがわたしに注ぎ込んでいるのかもしれない

踏切でレールの先をみていた君とわたしの指には花が咲かない
望んでもいないのに水をかけられてしまう
名前さえ知らない他人に便宜上名前を聞かれる度
耳元でこっそり君の名前を教えておく

朝の九時にはいつもの教室で視線を合わせ
君はだるそうな声でわたしの存在を今日も抱き寄せ
また昨日よりも綺麗になってしまっているその蕾に
無防備な香りを纏っては、知らぬ振り
どうして毎日一緒だというのに
この二つの感情は交わらないのだろう
、声を出さないからかもしれない
押し殺しておしころして、夢だけをみているうちに
君だって誰かの体温に染まっていくのかもしれない

慣れすぎている
揺れない心なんてものはなかった
のに
夜ごとわたしの上に覆い被さるのは淋しさで
舌で掬い取られるその味を囁いてみてよ
また誰かが
君の名前でわたしを呼ぶ







自由詩 名前を教えてあげる Copyright あぐり 2009-10-07 22:02:40
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