失われた水泳部員
北村 守通

Mは

もう名前すら忘れてしまった

突然消えてしまった


彼の為のコースがぽっかりと空いた
選手登録表が
一つ埋められなくなった
仕事が増えた


マリファナをやっていると
本人は話していたが
それが本当のことなのかどうかを
知る術はなかった
お互いに必要な距離というものを知っていた
ただ
電話の音が鳴り止まなくなる

こぼしていた
いつまでも頭の中で鳴り響くんだそうだ


Mのコースも
揺らぎ続けていた
埋まることはなかった
その必要はなかったし
埋めるに必要な人員もいなかった
ただ
一日の仕上げの
ダッシュのサイクルがはやくなって
せわしくなった


どこからか
Mの巻き込まれている事態というやつが
風の噂とやらで伝わってきた
情報源が誰なのかは知らない
信用に足るのかどうかも知らない
そこには必要な距離があった
お互いにそれを知っていた


  母親が
  『違うひと』
  と
  父親に疑われ問い詰められたらしい

  そのこと自体は違っていたらしいのだが
  結局
  Mは二者択一を迫られることになったらしい


更に
月日は経ち
プールは閉められたが
Mは戻ってこなかった
母親と共に生きているのか
父親と共に生きているのか
知る術はない
あるいは
そのどちらでもないのかもしれない
お互いに
必要な距離というものが確かにあった


Mの名前は
忘れてしまって
思い出すことはできない
卒業アルバムの中にも
Mは居ない


自由詩 失われた水泳部員 Copyright 北村 守通 2009-08-26 02:24:06
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