透明な旗
塔野夏子

世界の尖端に
詩人のようなものが引掛かっている
重いカーテンをどんなに引いても
夜の窓から三日月がはみ出してくる
夢の過剰摂取の副作用が
紫色に垂れ込めてくる
中空には透明な旗が翻る
誰かの落書きが街路を駆け回る
此処にもそう長くは居られない
昨日のことを指先はまだ憶えているけれど
背中は忘れてしまった
奇術師と道化師とが
連れ立って丘への道を歩いてゆく
蒼ざめたカタルシスの破片が
音も無くきらめきながら飛び散る
箱庭に架かる虹を盗んで
少年が七月の方へと逃げてゆく
砂時計と地球儀が
銀色の秘密を囁き交わす
さて何処へ行こう? 答えはまだ無い
あるいはいつしか失くしてしまったのかもしれない
薄緑の星雲がひとつ傍らを過ぎる
街灯がタップダンスを踊る
テーブルの上のピンクのガーベラが
誰かに似た気配でこちらを振り返る





自由詩 透明な旗 Copyright 塔野夏子 2009-07-17 11:34:05
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