ともだちになろう。
佐々木妖精

何が見えているのか分からない
ただ何かが見えている
ようだ
揺れる隙間から何かが見えた気がする
何が見えたのか分からない
少なくとも起きてはいると感じる

悲劇的名作を繰り返し観て泣いてしまう。
というきみは、悲劇的な名作をわざわざ観てしまうことをかなしんでいるようだった。
リモコンに主導権を握られているかのように、きみはまだともうを反復している。

何が見えているのか分からない
ただ何かを見ていると感じる
逆さまつげの向こうに何か見えた気がする
何が見えるのか分からない
ただ深いまばたきが伝わる

しかしきみは毛まみれでいいね。
小石が気になって駆け回れない獣のようだね。こわがらなくていいよという人は、躓いたことがないんだから気にしなくていいんだよ。
それでも小石と地球どちらに躓いてしまうか。戸惑うきみはいいね。

何が見えているのか分からない
ただどこかを見ているのだ。ろう
視点から終点が見えた気がする
どこを見ているのか分からない
ただ震えてはいるのが伝わる


まさにきみは目触りがいいね。
きみを抱く赤ん坊が、声だけの涙を湛えていていいね。
肩に手を添えられるだけで零れてしまうものや、なぞられただけで泣いてしまうことが、コップだけじゃないことを知っているんだろう。

どこを見ているのか分からない
ただどこかを見つめているのが分かる
互いの中間地点に何かある気がする
何があるのか分からない
ただそのポイントを反復するには
まだともうを数時間 重ねなければならないのを知っている

という僕にはきみの頭しか見えていない。
数分置きにうつむく、微かに呼吸する毛先しか見えていない。
見えていない、ということに関しては僕の後ろの人が知っているはずだ。僕にしか見えない人か、きみにしか見えない人かは分からないが、
それはきっと、神様には見えない場所だ。

きみの手に選択権があるように、僕は手動権を握りしめている。
悲劇がすでに移項したなら、どうか僕にも見せてほしい。
きみが右往左往した読点を。


自由詩  ともだちになろう。 Copyright 佐々木妖精 2009-06-30 19:35:52
notebook Home 戻る  過去 未来