煙草の箱
aidanico

マダガスカルヴァニラの薫りが部屋中を支配している。キャメルのボックスとキャスター、鏡の後ろにはちゃっかりとホープを忍ばせておいた・「ウィスキーはお好き?」ブロンドのカールが作りこまれた口元の黒子が目立つ女が聞く。乾いた景色に似合うのは溜息の出るような、時にはジャズになり時にはクラシックになる、波打つような或るセッションの風景。“ハニー・バター・トワレ”と名付けられた生クリームと蜂蜜、吐き気がするような濃密なバターが織り成す少し焦がしたトーストの上のマーブル模様・扉の外にはサイドカーと豚・引っ繰り返したまなつのはこ・器用な指先で鳴らすポートレイト・イン・ジャズ、エッシャーが描いた騙し絵、「愛していたよ」の嘘くさい台詞が得意だったね・ポケットにこっそりと忍ばせておいたのさ、何時でも眠る準備ができるように、ひと粒で真っ赤なハイビスカスが咲き誇るベネズエラカカオ。


自由詩 煙草の箱 Copyright aidanico 2009-05-08 00:42:15
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