さ よ な ら あ な た
aidanico

雨の日。昨日は、曇りだったけれどそれでも瞼に十分な重たさが残っていて、それは私の目を臥しがちにするのに最適だったのです。オーディオから繊細なピアノのアルペジオ。涙腺とか汗腺とか、夏は何かと腺の緩む季節だったりするのかしら、だってまだ折れた眉墨の芯をさがしているんだもの。目に入った、のは埃だった、それともあなたの姿だった。さよならあなた/何よりも愛していたマルボロのメンソールと難しい名前のオレンジのリキュール、幾つかの写真、幾つかの映画の場面、凡てはあなたの口から零れ落ちようとして、地面に幾つも染みを作ってしまった、さよならあなた、溶け出した珈琲のお砂糖、無理に促した相槌、集めていた沢山のレコード。それらは汗ばむを待ち侘びて、期待と絶望に膨らむようだった。総ては予感されていたことなのね/全ては俯瞰で見られた筈の風景だったのだわ/さよならあなた、もう直ぐに梅雨が来て、去っていくわ/何もなかった事のように。


自由詩 さ よ な ら あ な た Copyright aidanico 2009-05-08 00:20:27縦
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