記念写真のような
水町綜助

初夏の風の流れかたは
グラウンド横にもえる雑木林の
緑の揺れかたであらわされるらしい
美しく思いすぎないよう
美しく思いすぎないよう
丘を登る道を歩く
ふたつ影は千鳥格子に
新緑と樹間を刻んでひらく
ひらかれた
緩やかに
カーブする
道の先
今日の
向こうから
始まる想像の毎日
どちらが黒鍵だか
白鍵だかわからないけど
鍵盤は刻んでいくよ
鳴る音は
重なって
いくらでも
あるし
日々はさらに
譜面もないまま
弾かれ続けるし
譜面にする必要もないし
終わりもないから
曲ですらないし
だから音だろう

広いんだこの視界いっぱい
いちめんの窓があって
その向こうになんだかわからない広葉樹が一本立っている
少しだけ背の高い木で
葉の形がここからじゃよく見えないけど
黄緑色ですごくきれいだ
風とか
光にときどきもみくちゃにされて
まるで駐車場を駆け回ってたこどもの前髪だよ
青い日陰で横並びに
煙を吐いている僕らは
すすきの、ざざあと流れる様を
くろい眼に映して
青色をうかべて
折り重なって続いていく
丘のつらなりをみどりに
あふれさせて
走り回ってきた
庇の下は青くてしずかだけれど
冷たくて胸が騒ぐ

***

窓辺に一幅の絵として
向かい合うようすと
影として開きかけた口唇
語ることよりも
語られている
そのことを
瞳の奥に思い出して
ぼくたちは諳んじる


 オレンジの皮むいた
 目に染みる、柑橘のみずみずしさが好きなんだ
 「で?」なんて言うなよ
 とにかく満ちていくんだ
 嬉しくてしょうがないほど


  *


筏ができたら
ずんどうにたくさんのカレーライスをこさえて
白いシーツでいいから
帆をいっぱいに張って
うなばらへ
出てください
三、四人用の丸太を贈るから
しっかり結んで
ほどけないよう
それは彼の仕事だ
それで彼女はカレーを煮て
どんな野菜も肉も
いろとりどりの香辛料も
ぜんぶ煮て
まろやかに
あたたかくして
白いご飯といっしょに
みんなでたべるんだ
それはとても
たのしそうじゃない





自由詩 記念写真のような Copyright 水町綜助 2009-04-29 13:54:32
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