別離の詩
塔野夏子

春が白く垂れこめている
足元には名前を知らない薄紫の小さな花が
風に揺れている

一緒に
何処かへ行けると思っていた
何処へか はわからないまま
僕らは二人して歩いてきた
だけどもう 此処からは何処へも行けない
一緒には

 《君は僕の夢だった
 《いやそれは今でも変わらない 君は僕の夢だ
 《ただその夢を見つづけることが 僕にはもうできないのだ

白く垂れこめた春は
追憶を映し出すスクリーンのようだ
あの時も あの時も あの時も
何処かへ行けると思っていた

何処へか はわからないまま――
もしそれをもっと つきつめていたなら
何かが 変わっていただろうか

 《何ひとつ 君のせいではない
 《だから 君は君で瞳をあげて

足元で揺れる小さな薄紫の花の
何と さびしいことだろう
此処からは もう何処へも行けない
一緒には

 《君は君のままで行くがいい
 《僕が君にしてあげられることは もはや何もないのだ

僕らは此処まで
二人して歩いてきた
一緒に
何処かへ行けると思っていた
あるいは
何処までも行ける と……?

今となっては もう何もわからない
ただ此処から二人 離れてゆくだけ

 《此処まで一緒に来られてよかった
 《さよなら
 《さよなら
 《さよなら……





自由詩 別離の詩 Copyright 塔野夏子 2009-04-27 11:17:36
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