おしきせ
nonya


せっかく森を着せてあげたのだから
木漏れ日のように微笑みなさい
せっかく草原を着せてあげたのだから
そよ風のような声で話しなさい

あなたはアミメキリンであり
トムソンガゼルであり
フクロモモンガであるわけだから
血の滴るような肉やギラついた脂で
服を汚してはいけません

中途半端な中間色なのだから
あなたが何かを叫ぶ必要はないのです
安っぽい木綿の手触りなのだから
あなたが誰かに勝つ必要はないのです

その服はさりげないさりげなさと
不自然な程の自然体と
涙ぐましい涙もろさを
丁寧に織り込んで作り上げた
私の一世一代の自信作です

それなのにあなたは
たまには脱がせてくれなんて
罰当たりなことを言うのですか?

誰からも好かれる人になりたいと
みっともないくらい懇願したのは
あなたの方ではなかったのですか?

いいでしょう
脱ぎたいならどうぞお脱ぎなさい

でも服を脱いだ瞬間に
あなたの姿は見えなくなってしまうでしょう

いいえ
透明人間なんかじゃありません

もはやあなたは服の一部なのです
正確に言えば
あなたは服の左の袖ボタンのひとつなのです

それでも脱ぐというのなら
スッポンポンにでも何にでも
なっちまえばいいのです



自由詩 おしきせ Copyright nonya 2009-04-24 21:40:14
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