戸越銀座からヤダマサシ
AB(なかほど)



替え玉 頼むと
隣で苦い顔をした
ヤダマサシはそんな友達
旨いものは旨いからもっと食べたい
言いたいことは判る
替え玉のったらダシが薄くなって
さっきと違って
もう旨くないのかもしれない
そういうところもひっくるめて
「はいな」
って脂ぎった顔でひと玉くれる
尾場ちゃんの心意気が見たいんじゃないか
それでこそ
  ってもんで
一体
こってり自慢のラーメン屋にて
どうして
あっさりを頼めるんだろうか
そりゃ 
ほんとのところはさ
君の器に残ったあっさり汁に替え玉のせて欲しい
くらい
なのだけど
傷つきやすいのは
別にあっさり味ばっかり喰ってるからというわけじゃないだろうし
傷つきやすいから
あっさりになってるわけでもないんだろう
さあ
  さあ
さあ
  さあ
今夜の
のれんをくぐる前には
空を見て
晴れでも雨でもかまわないから
それからのれんの奥の愛しい人たちに
空の話をするんだ
 雲の話をするんだ
  星の話をするんだ
きっと
君の手にある本にもLPのブックレットにも書いてない
大切なものの話が始まるだろう
そして
暖かい湯気に
眼鏡を曇らせて
ユリコにも聞かせるべき話が生まれるだろう
そうだあの
ブランコと空の話は
彼女の足は
今でも揺れているかい
揺らされているのかい
空を蹴り上げているのかい
それから
替え玉 頼むと 
きまって
隣で苦い顔した
ヤダマサシはそんな友達



     


自由詩 戸越銀座からヤダマサシ Copyright AB(なかほど) 2004-08-26 15:18:59
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