イントロ 0+1
AB(なかほど)

 

駅の向こうはすっかり変わってしまった
と 久しぶりの彼女が言う
のを 知らんフリでスタスタと歩き
再開発のモールを抜け
すぐそこの古い喫茶店が見えると
彼女の頬が少しだけ紅潮した
マスターはいつもより微笑んで
そう、彼女を連れて行くと
いつもより微笑むマスターが
なにもいわずにサイフォンを外し
二人分のコーヒーカップを取る
すっかり変わってしまったね
と彼女はマスターに言いながら
でも、コーヒーは相変わらず
と言いながら
マスターは
ここは変わんないでしょ
と言って、それから
棚の奥の方からレコードを取り出し
これも、
とジャケットを僕等の方に見せ
再開発の区域から外されて
金 もらいそこねたよ
と嬉しそうにぼやくと
ターンテーブルが回り出し

  ぷつ
      ぷつ 
   ぷつ






イントロまでの針の音を聞きながら
こみあげるものを堪えていたのは
窓の外を見ている
しかなくなってしまった彼女と
そして僕と

いや

僕だけだったのかもしれない




イントロまでの
長い 長い時間


  ぷつ
      ぷつ 

 
   ぷつ






自由詩 イントロ 0+1 Copyright AB(なかほど) 2004-08-25 15:44:52
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