ぼくは仕事ができない
れつら


ぼくは仕事ができない
ぴかぴかしたのとつやつやしたのの区別ができない
鈍色の玉が転がるのを捕まえることができない
持たされた白い機械の置き場がわからない
箱を左手に札を右手に持って
一歩下がったら箱を差し出すつもりで
気がついたら札を渡しそうになっている
あわててもう一歩下がって荷物にけつまづく
転がり落としそうな身体をなんとか支える
大声で笑われながら
誰もぼくが笑われていることを気にしてはいない
と言い聞かせるながら
身体を起こす
顔が青白いのは体調がわるいのではなくって
頭がわるいのです
要領がわるいのです
ぼくは仕事ができない
休憩所でみんなが煙草に火をつけるのを見てから
ようやくぼくも咥える
だからいつも3分の1くらいは吸えないで
揉み消す
上手くできなかった仕事が
灰皿の上で棒状に折り重なっていく
ぼくは仕事ができない
一礼して、荷物を下ろし、札をつけ、あるべき場所へ運ぶ
誰にでもできる簡単な仕事が
ぼくはできない
店中の音がきらきらと跳ねて汗腺を埋める
片耳だけつけたイヤホンから聞こえるノイズで
頭が左に傾いていく
しまいに真っ直ぐ立てなくなって
ぼくを動かす画面の色が見えなくなる
もうすぐ転ぶだろうというところで手が着けてしまう
立ち直れてしまうぼくは
間違えました、と傾いた唇を上げて目じりを下げて
間違えました、とくるりと向き直り
間違えました
こんなところに立っていて
涙を落としそうになっているのもたぶん
何かの間違いです
また巡回路を歩きながら
間違い探しをしている
ぼくの頭が間違いです



自由詩 ぼくは仕事ができない Copyright れつら 2009-03-30 17:30:11
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