鉄条網の向こうを走るあの長い列車が通り過ぎるまで
虹村 凌

スーパーカーより速く走りたいのさ
どんなメロディーよりも速く
鉄条網に寄りかかってジンジャーエールを飲みながら
セブンスターに火をつけてそんな事を考えたのさ

鈍色の錆びた鉄条網につかまりながら
100両編成の長い貨物列車が走っていくのを
コンクリートの陸橋の上から眺めている
あの長い貨物列車が通り過ぎたら
耳にうるさいくらいの静けさがやってくる
列車が通り過ぎるまで何をしようか

暴力的に悪い事がしたい
拳銃を握り締めて日本刀を握り締めて
悪い事がしたい
でも列車が通り過ぎるまで何をする?
投げ捨てたジンジャーエールの空き缶が
錆び付いた鉄条網を飛び越えて
あの長い貨物列車に飛び乗ったんだ
雨の日のドブを流れる笹舟みたいに真っ直ぐ
真っ直ぐに
この街を出て行く
あの列車は夜でも無ければあの空き缶は俺でもない

あの長い貨物列車が通り過ぎてしまう前に家に帰ろう
あの長い貨物列車に飛び乗った空き缶がこの街を出る前に


コップにジンジャーエールを入れてグラス越しに外を見たら
朝陽に輝く街が見えたんだ
コップにオレンジジュースを入れてグラス越しに外を見たら
夕焼けに染まる街が見えたんだ
コップにコカ・コーラーを入れてグラス越しに外を見たら
夜の闇に沈む街が見えたんだ
全部混ぜたら何も見えなくなる

遠くで長い貨物列車が走り続ける音が聞こえる
あの列車が通り過ぎたら
耳にうるさいくらいの静けさがやってくる

あの長い貨物列車は
夜じゃない


自由詩 鉄条網の向こうを走るあの長い列車が通り過ぎるまで Copyright 虹村 凌 2009-02-25 13:58:03
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