美術の先生は大きなキャンバスに描けばいいと言ったんだ
虹村 凌

終電を逃したサラリーマンが
「人生お先真っ暗だ」っつーから
「修正液で直せるし書き込めるじゃねぇか」ったら
鼻で笑って寝ちまいやがった
仕方なしにイヤフォンで音楽聞いてたら
いつの間にか起きてたそいつが
耳からイヤフォンを引き抜いて
「わかってんじゃねぇか」とだけ言ってまた眠った

大きな真っ白いキャンバスを目の前にして
何を描いていいのかわからなくなって
ちょろっとだけ線を描いてみたら
酷く滑稽な気分になって
どんどん線を引いていって
気付いたらキャンバスが滅茶苦茶になってて
白い絵の具も無くなってて
もうどうしようもなくなって
真っ白なスーツを着て
カレーうどん喰いに行ったんだぜ

始発が出る前にサラリーマンは
俺のスーツをちょっとだけ見て笑った
乗車券を無くした俺は彼と一緒に駅を出る事が出来なかった
家に帰る事が出来たら
あのキャンバスは捨てて
何処かに捨てられたドアにでも何か描こうと思う
カレーの染みがついた真っ白いスーツを着たまま


自由詩 美術の先生は大きなキャンバスに描けばいいと言ったんだ Copyright 虹村 凌 2009-02-25 06:47:37
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