むささび 渡る
Giton

あしひきの 山路もわかぬ いはがきの
やまぶき散るらむ 嵐ちかづけり

     ☆   ☆

みちの奥の 大白森に 
時なくぞ 雨は降りける 
山人の杣そま 

    ☆    ☆

目覚むれば 早朝つとにむささび 渡りてむ 
大白森の 木末こぬれ見上げぬ

    ☆    ☆

留火ともしびの 明石の磯を 過ぎつらむ
はや暁あかときと なりにけらしも

    ☆    ☆

いにしへの 明石の門にて 明け空を 
仰ぎて見れば 浮かぶ架け橋 

    ☆    ☆

あかときの 明石大門おほとに さしかかる
船の行く手に 浮かぶ架け橋 

    ☆    ☆

走り出の つつみに立てる 槻☆の木の 
秋ともなれば ひともと耀く

  ☆槻つき:ケヤキ 

    ☆    ☆

秋空に 彩る木々は 思ひ思ひ
せに似たる木を 探し見むわれ

     ☆   ☆

さ嶺嶮ねさし 相模の渓たに
君はしも 四十年よそとせこえて
なほも魂たま燃ゆ

     ☆   ☆

かぎろひの もえたつ焔ほむら なほ消えず
よもつ野原に 駆け惑ふ君かも

     ☆   ☆

葛飾の 真間の浦回うらま
そよぎ渡る 秋風に乗り
吹き寄せね吾が背

    ☆    ☆

夕迫れば 雲井波立つ 蒼海に 
暮れしづむかも 消ぬる残り火

    ☆    ☆

われはそも 野辺の月草 摺らゆとも
思はぬ人に 染むことあらめや

    ☆    ☆

谷深く 森繁けれど
径のへの みやまかたばみ 
木洩れ陽に咲く

    ☆    ☆

にほどりの 葛飾の野に 霜おけど
八幡の宮に 人の絶えなく

    ☆    ☆

葛飾の 八幡の宮に 人繁く
日がな一日 絶えず鐘の音

    ☆    ☆

東風吹かば 屋戸の梅の香伝へてよ
母の枕辺 ゐ添ふわが背に

    ☆    ☆

日にけにも たよりはあれど はしけやし
われは思へど 背は遠くあり

    ☆    ☆

はしけやし かなしくあれど 背を遠み
春の光に 笑みて語らふ

    ☆    ☆

初春の 雲なき空に 入り日差し 
友と語らひ 暮るる日もよし

     ☆   ☆

さやけき夜 波立つ雲の 空高く
浮かぶ眉根に 君の面影

    ☆    ☆

新玉の 年月を経て 逢はなくに
君の面影 繁きこのごろ

    ☆    ☆

国境 嶮さがし嶺生ふる 石いはつつじ
はしき小鐘を 人の知らなく

    ☆    ☆

すだ椎の きんに耀く たそがれの
燃ゆる長髪 背子し思ほゆ

    ☆    ☆

冬越しの 枯れ葉のこれる いぬぶなの 
幼き枝に 粉雪の舞ふ

    ☆    ☆

雪深み 山路にしるき 踏み跡に 
水源巡視の 人らを思ふ

    ☆    ☆

風は吹き 雪は積りて 融けなむを
路辺ふたもと 墓標はかしるべ
立つ

    ☆    ☆

待つ君の 肩にかかれる 白雪は
底冷ゆる夜に 温かきかな

    ☆    ☆

草繁る 隧道深く アブトの音
耳を澄ませば 風吹き抜ける



短歌  むささび 渡る Copyright Giton 2009-02-24 23:42:51
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