幸せの末路
亜樹

――波の間にはねた魚のその行方
――あくる日に落ちた椿のその最後

 どなたかご存知ありませんかと
 大きな声で喚きながら老女が通る。
 つららの下がった軒下で
 猫が寝ている。
 大層な間抜け面だ。

――羽一つ残してんだ鳥の後
――一年ひととせを見ぬ間に消えた蝶の羽

 どなたかご存知ありませんかと
 大きな声で喚きながら
 老女はもう死んでしまった恋を
 手繰り寄せ手繰り寄せ歩いている。
 猫はその様を見ながら
 大きな欠伸をする。
 或る春手に入れた幸せの末路である。
 死に損なった幸福は
 つららが落ちてくるのを
 今か今かと待ち構えているのに
 気づかないよう気づかないよう
 大声で喚きながら
 注意深く老女は歩くのだ。


自由詩 幸せの末路 Copyright 亜樹 2009-01-09 22:49:32
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