硝子の太陽
塔野夏子

冬の薄灰色の空に
硝子の太陽
私が歩む通り沿いの柵には
光沢のない有刺鉄線
遠くに鉄塔群

私の今のこの歩みは
自分の部屋へと帰るためだが
それでいて
どこへ向かっているのでもない!
いつからかいつもそうだ
どこを目指して歩んでいようとも
私はどこへ向かっているのでもない……

どこへでもない歩みをつづけながら
ふと思いだしたりする
――あの病院の中庭
芝生とベンチ
そこで交わしたいくつかの儚い言葉

どこへ向かっていてもいなくても
歩むことすら出来なかった日々――

胸に翳りをたなびかせながら
私は歩む
冬の薄灰色の空
硝子の太陽の下を
光沢のない有刺鉄線の柵に沿って
遠くに鉄塔群を眺めやりながら

どこへ向かうのでもなく
けれど自分の部屋へと
壊れた時計がいくつか待つ
忘却にどこか似た 白い自分の部屋へと





自由詩 硝子の太陽 Copyright 塔野夏子 2008-12-17 11:04:20
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