夜の秋
佐々宝砂

夜が終わろうとしている
真夏午前四時半の空は青ざめて

ほのかに光るシリウス
さっきまでは見えていたプレアデスは
もう見えない

コオロギが鳴いている
いちばんよく響くあれは
たぶんエンマコオロギというやつで
ときに派手に
ときにゆるやかに
揺れながら鳴いている

切れ味よく鳴いているのは
ミツカドコオロギだろう
最近あのへんてこな顔を見てないけれど
私の庭に生息してはいるらしい

遠くから野太く聞こえるのは
ウシガエルの声

田舎の夜はこんなにも騒がしくて
騒がしいけれど
さみしい

ちいさなころ
牛のいびきで目を覚ましたことがある
あれはなかなかやかましいんだ
いまこの家では
牛のいびきが聞こえることはない
すこし
さみしい

夏盛りの夜明け前
ひっそりと足音も立てずに
ゆうるりと
秋がやってくる

いちばん好きな季節のただなかで
さみしくてたまらない
夏を惜しむ
という言葉では
どうしてもまだ
何か足りないような気がしていて


自由詩 夜の秋 Copyright 佐々宝砂 2004-08-10 04:50:11
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