白い砂漠に恋する夜明け
りゅうのあくび

峡谷を挟んで
街がまた一つ
大きな白い砂漠に
のみ込まれて
消えた報せ

夜空の向こうには
目が醒めるほど
白い砂漠の朝を待ちながら
砂粒は銀色に輝いて
すらりとした紺色の地平線へ
永い峡谷が走っている
吊橋がささやかに
明日の方角へと架かる
谷を流れるせせらぎは
恋の音となって
そっと聴こえてくる

夜明けにかすむ
遠い過去の記憶は
とても細かい粒をした
砂丘に埋もれる
古代の哺乳類の化石か
ダイヤモンドの原石のように
ここが地球であることも
忘れたみたいに
夢を抱えたまま
まだ眠りに就いている

鳥も飛ぶことが
できない空から
ちりちりと届く
陽の光を避けるため
恋しい人との暮らしで
静かでこっそりとした
木蔭をもたらすことを願い

孤独な匂いのする
ポプラの苗木を
リュックサックに背負い
恋しい人のため
いずれポプラ並木を
育てる予定で
地上の最果てにある
寂寞の想いを記した地図と
小さなコンパスを
握りしめ
乾いた白い砂漠を
踏みしめて歩く

吊橋を渡る頃に
空気が凍える明け方には
ぬくもったまなざしを
古い吊橋のたもとに向けると
約束どおりに待つ
銀白色のジャケットを着た
恋する人を見つける

恋人は太陽が眩しい
ということを告げる
冷たくて凛とした頬を
暖め合いながら
白い砂漠はどこまでも
素肌を包んで
光のなかへと
倒れこむみたいにして

遥か南で採れる
黄色い果物の薫りが
微かに漂っていた


自由詩 白い砂漠に恋する夜明け Copyright りゅうのあくび 2008-10-27 20:26:50
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