ノスタルヂア
亜樹

冬の立つ前の最後の雨です。
サルビアの花が燃えるように赤くなる。

 (巷に雨の降るように)

  さびしいさびしい晩秋です。
  山ははらはら葉を落とす。

   (巷に雨の降るように)

     疲れた女が歩きつつ一人寂しく呟けば
     なにやら胸が塞ぎます。

   (巷に雨の降るように)

  肺に降り積む綿埃
  えへんえへんと咳き込めど
  少しも楽にはなりません。

     (巷に雨の降るように)

        すれば小高い梢から
        「それはノルタルヂアの云ふものぢゃ」と
        冠者が言うのを確かに聞いた。

  (巷に雨の降るように)



      【ああ、そういへば、この冬に】
      【おかあさまは、おいくつになられるのか】


 
冬が立つ前の最後の雨です。
割れて落ちた柘榴も赤い。

    (巷に雨が降るように)

ノスタルヂアの積もる日です。


自由詩 ノスタルヂア Copyright 亜樹 2008-10-23 19:42:33
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