哀愁の部屋
榊 慧



ついうっかり頭に入る他人の音に
また殺されてしまったようで
微妙な距離感のそいつは
道連れにわたくしを選びたいのやも知れません
わたくしはおずおずと目線を下げまして
本日知りました悲愴なことに
他人の音に、
はき気すら覚えていきました。


     
      こんな体験はいらぬでしょう
      僕が僕で辛いということは
      彼ら彼女らには迷惑らしく
      他人の音を やかましく
      しかし誰も悪くはないと
      それが故にまた僕はわめくのです



そういうことでもめるのは
おかしいと娘は思いました
そして
(早く私を殺して、)
と ありきたりなことを
飛躍してまとつきから逃げれれば
などと考えやめました
幼稚なことしかうかびません
こうして私は死んでいくのだと
呆れながらもこれが人というものだと



      他人の音がないときを
      欲しているのは人間の
      おのずからなるものでしょう
      僕はそうして僕のことをなぐさめて
      まともな人には、なれませんから
      嫌になってしまうのは
      おのずからなるものでしょう



鈍色にびいろと言っていいほどに
この生活と
この時間の色を 知っています
どうにもこうにもいそがしく
誰も気づきはしませんが
他人の音で消されそうなその視線
確かに憂いの色で、ありました



      静かな処へいきたしど
      さりとて自由はありませぬ
      いっそのこと 僕は
      みんなに失望されてしまいたく
      そのままひっそり ひっそりと
      他人の音を聞く側で
      死んでしまいとうございます



早く早くと願う娘は
この先のことが分かるので
やはり早く早くとせいています
娘はひとをうらめずに
逃れたいので早く早くとせいています
娘は長い黒髪を
すっかり短く切りました。





自由詩 哀愁の部屋 Copyright 榊 慧 2008-10-06 21:43:56
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