人殺しのカクテル
不可思議/wonderboy

人殺しのカクテル

絞め殺した女の子の幽霊と交わる
ブルーレイよりも鮮明な快楽へ導く
一字一句なぞるようにディック握る手つき目つき
突き出した唇の内に住む堕天使
精神と生と死を整頓したいがために
ビデオカメラセットし、ことに及ぶベッドシーン
しれっとするも幽霊とは思えない舌使い
悪戯に微笑む顔に興奮を隠せない

そもそもあれは殺人と呼ぶには静か過ぎた
驚かすも何も彼女は一言も発さなかった
僕といえば慣れた手つき初めてなのに躊躇せずに
自然に、不自然なほど自然に首を絞めた
湿ったシーツの上で硬くなったその死体を
額に汗しながら土を掘って山に埋めた
愛とは死の向こう側にあることもあるのだ
死とは愛のために積極的でさえあるのだ
地下の通り街角、沈黙を裂くラブラドール
ふかす煙草空き箱、足跡は消したはずだと
はじめからこうなることはわかっていたんだ
それは後悔ですらない幸か不幸かただの過去だ
不恰好なままで訪れた行きつけのカウンター
まぶた閉じたままで運ぶ酒を流し込んだ
混んだ店の中のどんな声も音に聞こえず
濁った海の中を一人歩くような気分さ
口塞ぐ道草、今日からは一人だ
いくら飲んだって俺に文句言う奴などいないぞ
溶解して溶けて消える今日と明日の境目
壊滅的な意識辿る宙泳ぐ赤い目
儀式的一杯目 意識的二杯目
三杯目以降はどれも同じ味がするぜ
数センチの泡に写る屈折した自画像
自尊心は歪むやめろ、これは俺じゃないぞ
叫ぶ声はかすれる、時が経てば忘れる
言い聞かせれば言い聞かせるほど彼女の顔が浮かぶ
ビートニクの朗読と盲目のピアニスト
目の前の演奏が遥か遠くに聞こえる
違う、俺は自由だ、俺は自由なんだと
言い聞かしていることで正常を保てる
いくら飲んだって俺に文句を言う奴などいないぞ
叫ぶ声は虚しく なぜか涙溢れる

窓の外を眺める 冬の雨は冷たく
濡れた石畳が写す街頭が導く
必要以上の沈黙が明日を閉ざす監獄
やっぱりこの部屋は一人では広すぎる
しばらくの間ソファで寝てたんだと思う
一時間だったかもしれないし、一日だったかもしれない
ベルが鳴ったので玄関から外を覗き込んだ
死んだはずの彼女がそこに立ってたんだ
「まぁ中に入れよ、ずっと待ってたんだ」
人目で彼女が幽霊だということはわかった
「何か飲むだろ?簡単なカクテルでいいかな」
「好いわよ」雨で濡れた髪が奇麗だった
彼女には足があったし、触れることもできた
でも間違いなく彼女は幽霊そのものだった
たった一つ殺す前と違いがあるとすれば
死ぬ前よりずっと、生きてるみたいだった

絞め殺した女の子の幽霊と交わる
ブルーレイよりも鮮明な快楽へ導く
一字一句なぞるようにディック握る手つき目つき
突き出した唇の内に住む堕天使
精神と生と死を整頓したいがために
ビデオカメラセットし、ことに及ぶベッドシーン
しれっとするも幽霊とは思えない舌使い
悪戯に微笑む顔に興奮を隠せない

朝日が胸に刺さり、ふっと目を覚ました
すでに彼女の姿はどこにもなかった
不確かな彼女の確かな存在感が
部屋の中にかすかに残っていただけだった


自由詩 人殺しのカクテル Copyright 不可思議/wonderboy 2008-09-17 23:04:07
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